小児科

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当院小児科における診療の紹介当院小児科における診療の紹介

当院小児科には、外来だけでなく入院病床もありますので、こじらせた気管支炎や脱水症など急性疾患児の加療も外来から入院までスムーズに行えます。しかしこれだけでは当科の特色が十分にご理解いただけないと思いますので、いくつかの疾患例を挙げてそれぞれの診療の流れを紹介していきたいと思います。当科の診療の実態を少しでもご理解いただけると幸いです。

Ⅰ 低身長まずは代表的な慢性疾患として低身長の診療を見てみましょう。

低身長というのは決して強い痛みなどを伴うものではなく、他人からは軽視されやすい身体的特徴です。しかし本人にしてみれば、強いコンプレックスを感じたり、社会的ハンディを受けたりする病態でもあります。それは子供でも同じです。しかし現在では、条件さえそろえば治療を行うことによって、大きな苦痛を伴わずに背丈を伸ばすことが可能です。たとえば、当科で10歳ごろから治療を受けはじめ、5年間で37cm身長が伸びた患児がいます。平均的な児童では同じ5年間で29cmしか伸びませんので、差は大きく縮まりました。背の伸び方には個人差がありますが、試してみて損はない治療だと思います。ただ問題は、背が伸びるのは小児期だけだということです。成人になってから後悔しても遅いということです。さらに、十分な伸びを求めるのであれば、第二次性徴期までに少しでも遅れを取り戻しておく方が有利です。ということは、小学校中学年から高学年ごろまでに低身長に気が付いて診断を受けていただくのが最適ということになります。低身長に気づくポイントですが、実はなかなか難しいです。平均身長との差を基準にするわけですが、子供さんの身長は毎月伸びていきますので、平均身長も同じように伸びていきます。そのため何cm以下が治療の適応となる低身長だとか、一律には言えないのです。そこで統計的な標準偏差という方法で表現することになります。厚生労働省の発表している診断基準では、-2SD以下が治療の対象になるとされています。ネットで「成長曲線」と検索すれば、お子さんの年齢(何年何カ月)に合わせた基準をcm単位で教えてくれるでしょう。また学校の保健室にも同様の資料はあるはずですので、治療が可能な低身長なのか相談されてはいかがでしょう。繰り返しますが、低身長への気づきは保護者の方々に任されています。そのうちに伸びてくるだろうなどと楽観視していると、将来後悔することになるかもしれません。さて具体的な手順を説明させていただく前に低身長の原因について説明しておきます。実は低身長の一番多い原因は家族性低身長です。これはご両親から受け継いだ特性によるものですので、現在の医療には改善させる方法がありません。次に多いのが(下垂体性)成長ホルモン分泌不全性低身長(GHD)です。そのほかにも治療の対象になる疾患はありますが、今回はこのGHDに関して説明を続けさせてもらいます。低身長を問題とされ当院を受診された患児には、受診した当日に採血・検尿を行い一般的な健康状態の把握を開始します。また両手の手根骨をXP撮影して骨年齢を評価します。これは低身長の方の多くは、骨年齢(体の成長)が暦年齢(実年齢)より遅れているからです。その程度を測るわけですが、差が大きければ大きいほど今後の治療効果が期待できるとも言えます。最後に頭部MRIで下垂体の検査を行います。空いておれば当日中に撮れますが、予約になることもあります。これらの検査の結果をふまえたうえで、次に2泊3日入院していただいて負荷試験を行います。実は成長ホルモンは、一日中適宜分泌されています。したがって一回の採血検査で不足を証明することはできません。そこで、起床後に体に負担(低血糖や低血圧など)をかけて一度に大量に放出を促します。そしておよそ30分ごとに採血して最高どれくらい放出されたかを見るわけです。これも厚生労働省の基準があり、最大でもこの基準以下しか出てこなかったということが証明されれば、成長ホルモンの分泌不全が証明されGHDの診断が確定し、治療開始となります。治療ですが、自宅で毎日一回皮下注射を行ってもらいます。低年齢の方であれば保護者が打つ必要もあるでしょうが、小学校中学年以上になれば自分で打てるようになる子供さんがほとんどです。それくらい簡便な注射装置が提供されます。現在までに注射を拒まれた子供さんはいません。

Ⅱ 心臓疾患の健診次に当院の得意とする循環器疾患の診療についてみてみましょう。

当院は循環器内科の先生方が頑張っています。その関係で循環器関連の検査技師も多く、機器も充実しています。乳児健診や学校健診で、心雑音や不整脈などを指摘された方々が精密検査を受けに来られた際にも迅速な対応が可能です。具体的にどのような検査が行われるのかを説明していきます。1) 心エコー検査; 心臓超音波検査とも言います。肋骨の隙間などから超音波のビームを照射し、その反射波を機械的に合成して画像として映し出す方法です。機器の性能向上に伴って心臓のように静止させることが困難な臓器でも、リアルタイムの動画として見ることができます。また血液の流れの方向も知ることができます。この機能のおかげで心臓の弁の狭窄や閉鎖不全(逆流)も容易に見つけ出せるようになりました。 小児期の健診では心臓の音に雑音を聴取されることがよくあります。その多くは無害性雑音という将来心不全に至る可能性の低い原因によるものです。しかし時々思いもかけない疾患に出くわすこともあります。当科で経験した事例ですが、生来健康で過ごしてこられた14歳の子供さんがとある理由でこの検査を受けられました。検査の結果、心臓の壁に穴が開いていることがわかりました。おそらく生まれつきのものだと思われますが、これまで運動時の息切れやチアノーゼなどを起こすこともなかったそうで、異常に全く気付かれていませんでした。また、ここで検査を受けなかったら、今後も長く病気の存在を知らないままになっていただろうと思われます。速やかに心臓外科を受診してもらうこととなりました。 心エコー検査のもう一つの特徴は、心臓の細かい部分を詳細に見ることができるということです。この機能は、川崎病にかかった子供たちの回復後管理に役立っています。川崎病にかかりますと冠動脈という心臓自身の細い血管に動脈瘤ができることがあるのですが、それを早期に発見するのに適しています。痛みはなく、放射線を浴びる危険もないことから小児に適した検査方法だと言えます。 2)心電図検査: 手足に3カ所、胸部に6カ所の電極を付けて心臓の電気的動きを記録する検査です。おおむね15~20秒間、横になっているだけで終了します。 3)ホルター心電計検査; 心電図検査と同じように心臓の電気的活動を記録する検査ですが、違うのは約24時間連続して記録できるということです。そのため電極を3カ所ほど張り付けて記録器と接続し帰宅していただきます。その後はできるだけ日常通りの生活を行ってもらいます。運動も、機械が壊れたりしないようなランニングや体操程度であればしてもらって構いません。また汗かきな子供にとってうれしいことに、最近の機器は防水性能が向上していますのでシャワー程度なら浴びても構わないものがあります。そして翌日、機器を外すためもう一度来院していただきます。 胸痛の原因究明や不整脈の頻度確認などに使われます。当院には十分な台数が用意されていますので、ほぼ依頼当日に装着可能です。ただ記録量が膨大ですので、結果の解析には2週間ほどいただいています。 4)トレッドミル検査: 一言で言ってしまえば、ルームランナーのようなものです。運動してもらって、心臓に負担をわざとかけます。その時に何か異常が出ないかを探る検査です。心電図をとるための電極を胸に張り付けて運動してもらいますが、心拍数がある程度上昇していただかないといけませんので、スピードはそれなりに早くなりがちです。循環器内科の先生が陪席してくださいますので危険は最小限ですが、体格の小さい小学校5年生以下の小児は巻き込まれる危険を考慮してこの検査は避け、それ以上の年齢の方を対象としています。

Ⅲ 起立性調節障害 から 小児心身症 

最後になりますが、当科を受診する患者さんが最近増えている疾患への対応を紹介したいと思います。この状況がこの地域だけの傾向なのか、世間一般の傾向なのか、はたまたコロナ流行による社会的ストレスの影響なのか、にわかには判別できません。以下に説明を行いますが、これらの疾患は、Ⅰ・Ⅱの疾患に比べますと決まった対処方法がありません。一人一人の患者さんごとに、オーダーメイドの対応が必要となります。

起立性調節障害

主な症状は立ちくらみといった起立性低血圧の症状です。急に立ち上がると眩暈を感じ、長時間立っていると倒れるといった症状がみられます。それ以外にも、起床時に起きられない、朝食が食べられない、午前中ボーっとしている、乗り物酔いがひどい、強い頭痛がする、風呂でのぼせやすい、グロテスクなものを見ると気分が悪くなり失神する といった症状がみられます。 すでに公表されている資料では、中学・高校生女児では、起立性調節障害と診断される生徒が4人に1人と無視できない数に上っています。さらに診断には至らないものの上記のような症状をいくつか持っている方は、全児童の60~70%に上っているそうです。にもかかわらず、児童に日常的に接する方々のご理解は十分とは言えない状況です。 これらの症状の原因は、自律神経の機能不全によるものと考えられます。小児の疾患ですので、自律神経失調というよりは自律神経未熟と考えてください。さらにその原因は、①患児自身の素因、②生育環境の影響、③生活環境の影響 が考えられます。多くの場合、生活環境の問題が引き金となり症状が発生してきます。そして②と③が悪循環を繰り返し、さらに患児に二次的な不安を感じさせ、症状の悪化へと進んでいきます。 例えば、朝起きられず登校時刻になっても起きてこないお子さんに、ご両親はどのように対処されているでしょうか。「いつまで寝ているんだ!早く起きなさい」と叱責してはいませんか?また登校してきたものの教室でボーっとして欠伸ばかりしている生徒に、「気合が足りない!」と叱責する先生はいませんか?ちょっと待ってください。このような症状は病気なのです。患児自身も早く起きて学校へ行きたいと思っています。にもかかわらず体がついてこず、本人は焦っています。学校でも同様で、患児も楽しい学校生活を望んでいます。それがかなわないということで、患児も不安を感じています。そこへ何の助けにもならない叱責を繰り返されては、気分が落ち込み、自己評価は下がり、抑うつ状態に陥ります。ますます学校に行きにくくなり、遂には自死を考慮することさえ考えられます。 このような病気を小児科だけで治療することはできません。心療内科や精神科との連携が必要となります。しかしすぐに対処してくれる医療機関が少ないのも事実です。また診てくださる医療機関に限って半年以上の予約待ちになっています。最初に書きました通り、このような症状を訴えて当科を受診される方が増えています。当科では、①②③の状況をゆっくりと時間をかけて聞かせていただき、患児にとっての一番の問題点を明らかにしていく方針です。しかし状況は十人十色で決まったやり方はありません。②③に問題があれば修正案を説明し、立ちくらみがひどければ昇圧剤や自律神経調節剤の投与を開始しています。さらに患児の苦痛を軽減し、自覚と自立心を養ううえでカウンセリングは有効です。当院では臨床心理士によるカウンセリングも行っています。以上、起立性調節障害について説明してきましたが、読まれてわかる通り小児心身症の一種です。ほかにも小児期にみられる心身症としては、過敏性腸症候群や拒食症などがあります。いずれの場合もすぐに治せる治療方法はなく、家族や学校と一緒にじっくりと時間をかけて取り組まないといけない疾患です。当院小児科のスタッフはその接着剤として、またコーディネーターとしての役割を果たしていきたいと考えています。
以上で当院での診療の流れの紹介を終わります。一口に小児科と言っても、様々な病気を扱っているということがお分かりいただけたでしょうか。我々小児科スタッフは子供さんの病気を診察して加療するだけでなく、子供さんの病気を心配し不安になっている保護者の方にも安心と癒しを持って帰っていただけるように心がけています。些細なことと遠慮せず、まずは相談してみるぐらいの軽い気持ちで当院・当科にお越しください。

担当医師

小児科科長:北川 康作(きたがわ こうさく)

北川康作Dr_.jpg自己紹介ボタン.png

卒業年 鳥取大学 昭和60年
所属学会等 日本小児科学会小児科専門医、日本小児腎臓病学会、日本小児感染症学会